はたらくおとこ

政治、経済、社会をテーマに考え事を書きます

衆院選を終えて① 甘えるな、野党

衆院選を終えて、2週間。

自民党の圧倒的な勝利で幕を閉じた選挙戦でしたが、振り返ってみると本当に誰が勝つのかが見当もつかない選挙戦でしたね。

野党のゆくえ

衆議院の解散直前になって衆院民進党が事実上の解党。前原代表(当時)の下で、希望の党になだれ込んで選挙戦を迎えるかと思われました。

ところが希望の党の小池代表は「排除」の2文字でリベラル議員の入党を拒否。今度は、8月末に民進党代表になり損ねた枝野さんを中心として、希望の党に拒否された議員たちの寄り合い所帯、立憲民主党が誕生しました。

当初あまり期待もされていなかったこの政党、最終的には議席を約3倍に増やす大躍進を見せました。支持率低迷にあえいだ民進党の政策をほとんどそのまま引き継いだ政党にもかかわらず、幅広い世代から支持を受けた立憲民主党。特筆すべきは自民党支持者の多い若い世代(10代・20代)で、SNSを中心に熱狂的なファンを獲得していった点ですね。ハッシュタグ「えだの立て」や「立憲カメラ」などは、多くのツイッターユーザーの間で広がりを見せました。

ネット選挙解禁から久しいですが、ここまでネットを駆使して支持を獲得した政党は立憲民主党が初めての例ではないでしょうか。自民党は膨大な資金をつぎ込んでネット広告を打ちまくってましたが、そもそもネットの広告なんて敬遠されるものじゃ…

みんなの予想を裏切る大勝利をおさめた立憲民主党自民党の安倍一強状態が続く中で弱まってきたと思われていた「リベラル」の勢力は、実は衰えていたわけではなかったわけですね。今回の大きな発見です。

一方希望の党は、「政権交代」を標榜して順調に支持を伸ばしていたにもかかわらず、「排除」発言以降急に勢力が衰え、結局議席を減らす始末。小池さんの側近として活躍した若狭勝氏や、民進党から移籍した実力者・馬淵澄夫氏など、有力政治家たちも次々と討ち死にしました。「排除」発言以降風向きが変わると、希望の党公認候補たちが自分の党や代表をけなしたり、選挙ポスターや看板から政党名を消したり。選挙区で足を引っ張られないために、とうとう「比例は希望の党に入れなくていいです!」と叫ぶ候補者も現れる有様。

政治家は選挙で落ちると本当にただの人になります。しかも政治家本人だけでなく、その秘書や家族みんなが路頭に迷うこともあります。だから政治家という生き物は、必死になって、少しでも安心できる大きな船に乗りたがるものなんですね。ただ希望の党タイタニックだった…。

本来関係ないはずの日本維新の会までこの沈没事故に巻き込まれ、あやうく海の藻屑となるところでした。大敗が予想されていましたがなんとか2桁の議席を守ったのはやはり地元政党に対する評価の表れでしょう。

維新については少々思うところがあるので、また今度書きますね。

立憲民主党のあおりを受けたのは保守系野党だけではありません。これまで民進党と共に野党共闘を支えてきた小沢さんの自由党や社民・共産党も大打撃をこうむりました。リベラル色を前面に出した立憲民主党選挙協力をしたため、リベラル票をごっそり持って行かれてしまい大敗。ただ、共産党などは選挙協力自体は今後も継続するようです。理想のためには自分を捧げる。さすがイデオロギー政党といった感じがします。

ここまで見てきたとおり、結果として、自民党が諦めた議席を野党が椅子取りゲームのように奪い合うだけの選挙となりました。

野党って?

今回の選挙結果を見てみると、嫌われ者(のはず)の自民党小選挙区のロジックをつかって大勝利を収めたことばかりが目につきます。すべての有効投票のうち、自民党候補と自民党へ投票された票の数は全体の5割程度。それなのに7割以上の議席自民党が占めることになりました。「こんな選挙制度でいいのか!」なんて疑問が湧くのも無理はありません。

が、「小選挙区比例代表並立制」は優れた制度です。かつて実施されていた「中選挙区制」では、選挙区から複数当選するので、そのうち必ず1名は自民党候補になる。言い換えると、「大量の資金と全国に盤石な支持基盤を持った自民党は、すべての選挙区に候補を立てさえすれば、かならず第一党の座を保障される」仕組みなんですね。たしかに野党候補も当選しやすい仕組みですが、そうした時代が長く続いた結果、金権政治が蔓延しました。

政権交代可能な選挙システムこそ、現行の「小選挙区比例代表並立制」。野党がこの仕組みを使いこなしてないだけなのです。イデオロギーや政策の枠組みを超えて選挙協力を行い、この仕組みを使いこなして政治に再び緊張感を取り戻す責務が野党にはあるはずです。

「政策のぜんぜんちがう政党なんかと選挙協力していいはずがない」という批判もあるでしょう。しかし、それは野党の役割を十分に理解できていないのと同じです。

たしかに政党は、自らの理念に基づいて公約を掲げ、政権奪取後にはそれを実現するという大原則の役割があります。

ところが野党は、それと同時に「政権を批判して、自分たちの要求を飲ませる」という役割も持っています。

すなわち野党とは、もともと与党に比べて自分の政策に固執する必要は少ないんです。それが額面通りに法律となることは100%ありえないわけですから。

これまでの国会を見てきてもわかる通り、与党はなるべく多くの賛成を得たうえで法案を通すために、意外に柔軟な対応を取るものです。「特定秘密保護法」や「テロ等準備罪」など賛否を二分する法案ではさすがに激突しましたが、ことし注目された「性犯罪に関する刑法改正案」そのほか数多くの法案や、予算案については与野党で密に協議を重ねたり、委員会で話し合ったりなどして妥協点を探るものなのです。それが政治に対する現実的な姿勢なのは言うまでもありません。

そうすると政権を目指す立場である野党は、なおさら理想主義に走ってはいけないのです。

まずは野党同士で、理念や政策を超えた選挙協力が大変重要です。まして安倍一強状態の是正を求められている今回の選挙では、なおさらそれが重視されるべきでした。仮に野党連合による政権奪取まで考えていなかったとしても、与党に大きな打撃を与えることを目的として野党勢力を伸ばす意義は大きいのです。

各党が多くの候補を当選させるために、すみわけをせずに候補者を擁立することは極めて当然で合理的な行動です。しかしその結果がもたらすのは野党の総討ち死にでしかありません。

野党はいい加減、自民党と挑むふりをしながら椅子取りゲームに興じるのはやめたらどうですか。